『複雑系としてのサッカー』【全8巻】の試し読みページです。
全巻の見どころと、第1巻の冒頭をそのまま公開しています。
「見方が変わる」感覚を確かめてください。
全巻の見どころ
全8巻+序・終。読了は全体で約4時間半です。
試し読み:第1巻の冒頭
ここから下は、本編第1巻の書き出しをそのまま掲載しています。
サッカーを「複雑系」として理解する。この視点があるかないかで、指導の全てが変わります。
この巻では、複雑系という考え方の歴史から始まり、なぜ今この視点が必要なのかを解説します。従来の「分けて教える」指導の限界と、「全体で育てる」複雑系的アプローチの違いを理解できるようになります。
読み終わる頃には、「なぜ同じ練習で結果が違うのか」「なぜ細かい戦術指示が機能しないのか」といった現場の疑問が、すっきり腑に落ちているはずです。
この巻の目次
- 第1章 サッカー指導が変わる”複雑系”という視点
- 第2章 複雑系とシステム思考
- 第3章 複雑系の魅力と注意点
- 第4章 なぜ”分けて教える”ではうまくいかないのか?
- 第5章 サッカーを複雑系として捉えると何が変わるのか
第1章 サッカー指導が変わる”複雑系”という視点
皆さんはサッカーの指導現場を見ていてこんな疑問を抱いたことはありませんか?
「同じ練習をしているのに、同じ結果が出ないのはなぜだろう?」
「監督があれほど細かく戦術を決めているのに、なぜ試合では思うようにいかないことが多いのだろう?」
「ある日突然リフティングが上手くなるのはなぜだろう?」
これらは、きっと皆さんが現場で感じているけど言語化できていない部分だと思います。
実は、これらの答えは「複雑系」という科学的な視点にあります。
それでは、なぜ今サッカーを複雑系として理解することが重要なのか、その背景と可能性について話していきたいと思います。
① 複雑系という革命的な発想の歩み
複雑系という考え方は、決して新しいものではありません。
まずその歴史を簡単に振り返ります。
1. 自然科学における複雑系の誕生
始まりは1960〜70年代でした。
この頃、物理学や生物学の分野で「複雑系」が学問として本格的に研究され始めたのです。
これまでの科学が扱ってきた単純で予測可能な現象とは違い、非線形科学やカオス理論といった新しい分野が注目されるようになりました。
考えてみれば当然のことです。
自然界には、単純な法則だけでは説明できない複雑な現象がたくさんあります。
2. 人間活動への応用拡大
続いて1980年代以降になると、この考え方は自然科学の枠を超えました。
経済学や社会学、マネジメント理論など、人間の活動全般に応用されるようになったのです。
「なぜ市場は予測不可能なのか?」
「なぜ組織は思うようにコントロールできないのか?」
こんな疑問に、複雑系が新しい答えを提供し始めました。
3. サッカー界への波及
そして1990年代〜2000年代、ついにサッカー界にもこの波が到達しました。
特にオランダ、スペイン、ポルトガルといった国々で、これをサッカーにも応用しようという発想が出てきました。
② 日本への波及
1. 戦術的ピリオダイゼーション理論の波及
では次に、日本への影響について見てみましょう。
日本にこの考え方が本格的に紹介されたのは、2008年に発行された村松尚人氏の著書「バルサ流トレーニングメソッド」でした。
この本によって戦術的ピリオダイゼーション理論が日本に紹介され、「サッカーは複雑系のスポーツである」という議論が一気に注目を集めるようになったのです。
興味深いことに、この戦術的ピリオダイゼーション理論は、実は書籍刊行より約30年前にポルト大学のビトル・フラーデ教授によって発案されたと言われています。
つまり、サッカー界では複雑系の考え方が他の分野と並行して、静かに研究されていたということです。
2. モウリーニョの成功がもたらした注目
この理論がヨーロッパで爆発的に注目を集めたきっかけは、2003-04シーズンのUEFAチャンピオンズリーグでした。
FCポルトを率いるジョゼ・モウリーニョ監督が、当時としては革新的な練習方法で優勝を成し遂げたのです。
さらに重要なのは、モウリーニョ自身が戦術的ピリオダイゼーション理論の信望者だったことです。
その理論に基づいたトレーニングを徹底していることが知られると、スペインをはじめヨーロッパ各国で同理論への関心が一気に高まりました。
この理論の最も重要な前提は、「サッカーはそもそも複雑系のスポーツである」という認識でした。
3. 僕自身の体験から見えた現実
ここで、僕自身の経験についても触れておきます。
当時の僕も村松氏の書籍を通じてその理論を知り、大いに興味を持ちました。
そして嬉しいことに、2009年9月に日本で初めてFCバルセロナオフィシャルサッカースクールが開校されると、同年10月から僕も当スクールのコーチとなる機会に恵まれたのです。
その後、3シーズンにわたって村松氏とともに指導にあたる中で、理論と実践の両面から複雑系としてのサッカーに対して関心が湧いてきました。
この貴重な経験を通じて、僕は複雑系としてのサッカーを本格的な研究対象にするようになったのです。
僕がスペイン・バルセロナへ留学したのが2015-16年。
帰国後の約10年間も合わせると、約15年近く、この複雑系としてのサッカーを模索し、言語化を試みてきました。
その後、自身の指導現場での実践と理論の融合が、新たな発見をもたらしてくれました。
③ なぜ「今」なのか?——サッカー指導の革命
それでは、なぜ今この時代に複雑系の視点が重要なのでしょうか?
複雑系の視点を持つと、サッカーの指導における考え方や、ピッチ上で起きている現象の捉え方は、これまでと180度変わります。
それは単なる理論の変化ではなく、サッカーそのものの本質に迫る変革なのです。
また、日本のサッカー界では戦術的ピリオダイゼーション理論やプレイモデルの解説はあっても、サッカーにおける複雑系そのものの解説は少ないと認識しています。
しかし、僕が現場で実際に指導している感覚では、それらの理論よりも、複雑系の理論を最初に理解することの方が重要だと考えています。
逆にいうと、複雑系の理屈さえ分かってしまえば、プレイモデルもエコロジカルアプローチもすんなり理解できます。
なぜなら、最新のサッカー理論は全て複雑系の考えをベースとし、そこから派生しているように思えるからです。
1. 従来の「中央制御型」サッカーの限界
まず、従来の問題点を整理してみましょう。
これまで主流だったのは、監督が細かく指示を出し、選手はその通りに動くという「中央制御型」のサッカーでした。
試合だけではなく、日々の練習でも思い当たる方も多いのではないでしょうか。
そのような方法は確かに短期的には秩序が生まれ、ある程度の結果も出せるかもしれません。
しかし、厳しい話ですが、この方法には深刻な問題がありました。
選手の判断力や主体性が奪われ、サッカーの本来持つ”面白さ”——予測不可能性、創造性、そして生き生きとした躍動感——が削がれてしまっていたのです。
また、主体的にプレイできない育成年代の選手たちにとっては、監督の言われるがままにプレイすることで、サッカーが嫌いになる可能性も孕んでいます。
2. プレイモデルという新潮流の落とし穴
続いて、最近の動向についても言及しておく必要があります。
最近(10年くらい)日本の育成年代でも話題になっている「プレイモデル」。
これも複雑系のアイデアを活かした優れた概念です。
しかし、ここにも大きな落とし穴があります。
なぜなら根本である複雑系を理解していないと、プレイモデルも機能しません。
特に僕が独自に指摘している問題として、「プレイモデル過多」や「高すぎる再現性の問題」といった弊害があります。
つまり、せっかくの革新的な理論も、その本質を理解せずに表面的に取り入れると、結局は従来の中央制御型と変わらない結果を招いてしまいます。
3. 複雑系が切り開く新しいサッカーの世界
では、複雑系を真に理解した指導では何が変わるのでしょうか?
以下、箇条書きで整理します。
①選手が自ら考え、関係性の中から自然に秩序が立ち上がる
監督の細かい指示がなくても、選手たちが互いを感じ取り、自然と美しい連携を生み出します。
②想定外の連携やプレーが次々と生まれる
教科書にはない、その瞬間にしか起こり得ない創造的なプレーが頻発します。
③チーム全体がひとつの生命体のように変化し続ける
まるで一つの生き物のように、チームが状況に応じて柔軟に形を変えていくのです。
④日々の練習や試合で介入すべきポイントが明確になる
僕ら指導者の悩みの多くは「どうやったら選手が成長するのか」だと思いますが、そのメカニズムとアプローチ方法が変化します。
⑤今まで理解できなかった現象が手に取るように理解できるようになる
「なぜあの時あのプレーが生まれたのか?」という疑問が、明確に理解できるようになります。
そして最後に、指導の根本が変わります。
コーチの役割も、「教える人」から「環境を整える人」へと根本的に変化します。
つまり、コーチが「操縦するサッカー」から、選手が「創り出すサッカー」へと変わるのです。
どうでしょうか?
これだけでもワクワクしてくるのではないでしょうか。
④ 日本サッカーの新しい可能性
この視点を育成年代の指導に取り入れることで、サッカーはもっと面白くなります。
もっと豊かになります。
皆さん、想像してみてください。
まず、選手が主体的に取り組み、想定外の創造性を発揮する練習風景を。
コーチが「こうしろ」と言わなくても、選手たちが自分で考え、試行錯誤を繰り返しながら新しいプレーを生み出していく姿を。
次に、チームがひとつの「生き物」として進化する過程を。
選手が劇的に成長し、チームが指導者が思いもよらなかったプレーを見せる姿を。
そして最終的に、指導者自身も「教える」から「環境を整えて見守る」へと役割が変わり、日々の練習や試合が新鮮な発見の連続になる体験を。
これは決して理想論ではありません。
複雑系を理解し、それに基づいた環境を整えれば、確実に起こる現象なのです。
僕自身、この概念を取り入れてから明らかに指導に対する考えが変わりました。
⑤ 理論を超えた「冒険」への招待
最後に、重要なポイントを強調しておきましょう。
複雑系を理解することは、単なる理論の勉強ではありません。
それはサッカーを「やらされるもの」から「創り出す冒険」へと変える力を持っています。
選手にとっても、コーチにとっても、そして観る人にとっても、サッカーは新しい次元の面白さを見せてくれるでしょう。
現代は情報があふれ、様々な理論や方法論が飛び交う時代です。
しかし、だからこそ本質を見極める力が必要です。
複雑系という視点は、サッカーの本質を理解し、その可能性を最大限に引き出すための、最も強力な武器なのです。
また、育成年代においてもヨーロッパでは単年契約の中で、指導者も選手も目の前の結果に固執しないといけない環境ですが、日本はそうではありません。
日本の教育システムである6-3-3(小学校が6年、中高が3年ずつ)。
つまり、日本では6年間、3年間という中・長期的スパンで選手を育成することができます。
僕は、このシステムにも大きな可能性を感じています。
第2章 複雑系とシステム思考
サッカーを指導していると、「なんでこうなるんだろう?」と思う瞬間がたくさんあります。
同じメニューでも、Aチームではうまくいくのに、Bチームでは全然ダメ。
ちょっとした一言でチームが一気に良くなったり、逆に崩れたりもする。
これは決して偶然ではありません。
サッカーというスポーツも選手への指導も、”複雑系”という生き物だからです。
この章では、「複雑系って何?」「どうしてそれがサッカーと関係あるの?」という疑問を、できるだけ難しい言葉を使わずに、身近な例からひも解いていきます。
そして最後には、「なぜ上手くいくときといかないときがあるのか?」が少し見えてくるはずです。
続きでは、複雑系・システム思考の中身を、
渋滞やイワシの群れなど身近な例から一つずつ解きほぐし、
「なぜ分けて教えるとうまくいかないのか」まで、現場の言葉で解説していきます。
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